75歳以上のドライバーは同乗者効果で事故率が約8割低下~ロボットを介した運転支援と関連研究~

2024/5 インタビュー・イベントレポート

[お話を伺った方]
名古屋大学未来社会創造機構
特任教授 田中 貴紘 様

自動車業界で進む自動化やデジタル技術を活用した運転支援機能。その取り組みの一つに車と人のインタフェースに、コミュニケーションロボットを活用する研究が行われています。安全運転のために、ドライバー自身に「自分の運転スキル」をいかに認識させるかに着目し研究を進めている田中先生を迎え、ユカイ工学内で勉強会を実施しました。
ロボットを車に同乗させること、ナビ(映像)や音声ではなくロボットである必要性を、最新の実証実験結果と併せてご紹介します。

■目次
・車載ロボットの演出による運転寿命の延伸と心理的リアクタンス
・ロボットとドライバーによる次元の一致とRHMI(Robotic Human Machine Interface)
・なぜ、スマホやカーナビではなくロボットなのか?
・最新研究:高速道路の渋滞回避における実証実験

– 車載ロボットの演出による運転寿命の延伸と心理的リアクタンス

高齢者ドライバーによる交通事故が増え、加齢による認知機能の変化や運転への過度な自信が問題となっています。
田中先生の調査によると「80歳を超えたドライバーのうち70%が運転に自信あり」と回答しているそうです。そのため、自分で自分の不安定な運転部分を認識させることが、事故を減らすことに繋がるのではないか、という自助による運転寿命の延伸に着目した研究をしています。この研究は高齢者だけではなく免許を取ったばかりの若年層も対象です。

助手席に誰か乗っているかどうかで、運転に少し緊張感が出た経験をされた方もいるのではないでしょうか。同乗者から運転を見られている(良いところを見せたい)、同乗者との会話、同乗者からの「自転車が来てるよ」などのサポートなどです。ですが同乗者から「ちょっと!スピード出しすぎて危ないよ!」と直接的に言われるとどうしても反発を感じ(心理的リアクタンスの発動と呼ぶ)、イライラしてさらに危険な運転につながることがあります。
一方で誰からのアドバイスなら聞けるかという質問に対しては、運転指導員に次いで、車・ロボットなら素直に受け入れられるという結果も出ています。

掃除ロボット・ルンバが動けなくて困っていたら動けるようにしてあげる、ペットが外を見ていたらカーテンを開けてあげるなど、対象が人でなくとも自分が相手を理解しようと行動する場合があります。田中先生は「自分が主体となって気付いた場合には受容度が上がる」ことに着目し、BOCCO emoやロボホン他コミュニケーションロボットを同乗者に見立てた実証実験を数多くされています。

– ロボットとドライバーによる次元の一致とRHMI(Robotic Human Machine Interface)

 
動画にあるように、ロボットが進行方向を向き、マップ情報やマップに含まれている道路交通情報から声で安全運転へのサポートを行います。ロボットが視界に入り、ドライバーと同じ進行方向を向くことによって、同乗者”感”を演出しています。田中先生は自分が意識して見なくても、視界の端にロボットがいて動いている状態で、何かを伝えようとしていると察することができる状態が、「次元の一致」であると言います。

実証実験で使用したロボットは普段から自宅内で使用するものとしており、愛着や信頼感が、安全運転サポートに対する受容性を高めることを検証されています。その結果、一時不停止が減る、一時停止時間が増える、急加減速が減った等の安全運転への行動変容の他、ロボットを載せたことによって一緒にドライブすることや、運転が楽しくなるといったポジティブな思考に繋がったそうです。

被験者へのフィードバックは、自宅に戻ってから被験者自身に行ってもらいます。ロボットは、点数ではなく「ここは良かった・危なかった」と伝え、短い運転動画を見ながらロボットと一緒に振り返りをします。

これまで田中先生は全国各地のドライバーと研究を重ねていらっしゃるため、運転特性からドライバーの性格を推定可能で、現在は特性に合わせた安全運転サポートの変更も研究中だそうです。

– なぜ、スマホやカーナビではなくロボットなのか?

幅広い世代に対して、実車使用時に想定される音声 / 映像 / ロボットでの受容性や運転阻害等を比較した結果、下記の通りとなったそうです。

■音声
・若年層は何を言っているかすぐに認識できる
・高齢層は話し始めの声が聞き取れず、理解できないため視線が泳ぐ
■映像
・若年層は映像が気になり,頻繁に確認しようとするため運転阻害になりやすい
■ロボット
・若年層、高齢層ともに、ロボットが動くと喋る(=何かする)と認識し,周辺視野で動きの発生が認識しやすいことから,ロボットの発話を認識しやすくなる

またロボットの形は筒→目→形状・光等の要素が増え、人型に近づくにつれて信頼感、好感、有能感が上がるという結果も出ています。

– 最新研究:高速道路の渋滞回避における実証実験

2021~2023年にかけて高速道路の渋滞回避行動を促すために、ダッシュボードにコミュニケーションロボットを載せた実証実験を行ったそうです。頻度を変えて①案内(経路誘導:例 〇〇まで運転してね)②注意喚起(安全への意識向上:例 速度上昇に注意してね)③ストレス軽減(渋滞緩和に向けた施策:例 PAのソフトクリームが美味しそうだよ)を発話させた結果、下記の結果が得られたと言います。


ユカイ工学はドライバーとロボット(運転支援システム)の間に新しい関係性を築き、運転中のコミュニケーションをサポートできるよう日々研究・開発を進めております。
車載ロボットやシステムについて、ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。

これまで車載関連で発表した取り組みはこちら

■BOCCO emoによるドライバー支援
https://www.ux-xu.com/report/exhibition_202301

■集音性能を高め、ユーザビリティ向上を目的としたDSP Concepts社との協業
https://www.ux-xu.com/news/20240111

スピーカー紹介
名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授
田中 貴紘
2006年 東京工業大学大学院 博士課後期程修了、博士(工学)。2014年より名古屋大学 特任講師、特任准教授を経て、現在に至る。人と知的人工物間の共生に向けたインタラクション研究に興味を持ち、ロボットを介した運転行動変容などに取り組む。研究成果活用のため、2020年に名古屋大学発ベンチャー 株式会社ポットスチルを創業。

2023年1月に実施したセミナーレポートはこちら
https://www.ux-xu.com/report/driver_robot

レポート一覧ページはこちら
法人向けサービスはこちら

メールマガジン

開発事例インタビューやセミナーレポートなどの最新情報をお届けします。
是非お気軽にご登録ください。

IoTシステム開発や
ロボット活用・開発のお困りごとは
ユカイ工学にお任せください

お問い合わせ・資料ダウンロード