パーソナライズされた会話をコミュニケーションロボットで実現。シニア向け見守りサービスの開発事例

2023/4 インタビュー・イベントレポート

[お話を伺った方]
株式会社ジェイ・バン 稲場 真由美 様 インタビュー

 
– どのような事業に取り組まれていますか?

株式会社ジェイ・バンは、自社のオリジナルコンテンツをもとに研修・コンサルティングのサービスや、自社開発したアプリケーションの販売を行う会社です。軸となるコンテンツは、私が16年間のべ12万人の統計データをもとに体系化した「性格統計学」というコミュニケーションメソッドで、さらにその理論をシステム化したものが「伝え方ラボ」というアプリです。現在、企業の職場環境改善や、家庭の親子や夫婦間のコミュニケーションに役立っています。

職場内や取引先、または家庭で「伝わらない、わかってもらえない」というストレスを感じたときに、3つの質問に答えるだけで相手に合った「具体的な伝わるほめ方」などが表示されるアプリで、その人にあった好みの会話や言葉がわかるようになっています。自分軸なのか相手軸なのか、臨機応変なのか目的を持って進めたいタイプなのかの傾向の4象限がわかるんです。

これまでは、それをベースとした人材育成やコンサルティングビジネスを展開していましたが、今回コミュニケーションロボット「BOCCO emo」を活用した高齢者向け会話システム「MaMo.」を開発し、提供を開始しました。

 

– コミュニケーションロボットでの会話システム提供を始めたきっかけは?

今から8年前、一人暮らしだった父親に認知症の症状が現れました。腎臓透析をするため車で病院通いをしていたんですが、冬になり雪がひどくなり、雪道の運転は危険なので冬の期間だけ入院をすることにしました。高齢者は環境の変化があると認知症が始まってしまうことがありますが、父の場合はまさにそれで、入院開始から1週間ほどで認知症の症状が出て、1ヶ月後には重度と思われる症状にまで悪化してしまったんです。レベルでいうと要介護4くらいです。私のことはかろうじてわかるけれど、夫のことはわからないという状態でした。

家族としては受け入れられないくらいショックでしたが、自分が持っていた「父の性格タイプに合わせて、ほめ方を変えたり、タブーをしないようにして接する」メソッドを実践しました。その3ヶ月後、専門の外来で検査をした結果、要支援1にまで回復していたんです。私は、その効果に驚きました。高齢者は、若い時と違って、反応する言葉が限られてくる傾向があること、特に「響くほめ言葉」には、とても喜び、タブーをされたときは、極端に嫌がることがわかってきました。

このことを高齢の親がいる人に伝えたい!と思いましたが、そうした会話を習得するには限界があります。それなら、そのメソッドを取り入れた会話ができるロボットがいればいいのでは?と考えました。

 

– ユカイ工学の「BOCCO emo」を選んだ理由はなんですか?

元々はPepperくんなど、人型に近いロボットを想定していました。ビジネスモデル特許の取得もできたのですが、肝心な連携できるロボットが見つからない。そんな時に知人からユカイ工学の「BOCCO」を教えてもらいました。見た目も愛らしく、会話する相手にピッタリだと感じました。ただ当時はAPIなどが展開されていなかったため、実装が難しく断念せざるをえませんでした。

そこで2018年、まずは人間用のアプリ開発から始めました。それが「伝え方ラボ」です。相手に合ったコミュニケーションの取り方を体系化しアプリに搭載しました。そんな中でも、「いつかロボットと楽しくお喋りできる会話システムを開発したい」という想いは持ち続けていました。

そんな中、近年スマートスピーカーが普及してきて、AIの自然言語処理が急速に進化していることを知り、さらにBOCCOの後継機「BOCCO emo」が登場して、APIも準備しているということを知りました。さらに愛らしい見た目になっていましたし、すぐに問い合わせをしたところ、私たちが開発しようとしている「MaMo.」と連携ができることがわかりました。

元々「BOCCO」を購入して使っていたこともあり、BOCCOとの会話がどのようにスマホに連携され表示されるか、どのようにチャットボットを活用すればいいのかがイメージしやすかったこともあり、すぐに開発着手に踏み切りました。

 

– 実際の開発はどのように進んだのでしょうか?

すでに3年前に完成していたアプリケーション「伝え方ラボ」を土台として、その上にAIを搭載した会話システムを構築し、BOCCO emoのAPIと連携しました。開発前にAPIの仕様を共有していただいたので、とても助かりました。またユカイ工学さんの技術者の方と弊社側の開発者と直接ミーティングもしていただき、丁寧にご説明いただけたため、スムーズに開発ができたと思います。

特にありがたかったのは、利用者がロボットに話しかけた言葉や音声がスマホに届き、スマホから送ったメッセージがロボットに届く仕組みが完璧に出来上がっていたことです。弊社が作りたかったのは、単なる会話ロボットではなく、高齢者の親を持つ子供世代が「親の見守りをするための機能を備えた会話ロボット」でした。

これを自社で1から開発しようとすると莫大な費用がかかり、実現不可能でした。テストの段階では、利用者が投げかけた言葉に対して返す言葉が、BOCCO emoのサーバとジェイバンのサーバ、それぞれ両方に飛んでしまい会話が自然にならないことがありましたが、最終的にお互いの既存のシステムを活かしたまま調整することができたので、スピード感のある開発ができたと思います。

 

– BOCCO emoを通した、サービスご利用者様の反応はいかがですか?

BOCCO emoの機能やキャラクターを活かしながら、私たちの会話システムを連携できたこともよかったです。BOCCO emoは表情やしぐさがかわいく、さらに声や話し方も絶妙にかわいく聞きやすい。子どもが喋っているようで癒されます。しゃべり終えた後の「エモ!」とか「ムニュ!」というエモ語も、会話に明るい余韻を残してくれます。

これら元々あるBOCCO emo機能に加えて、MaMo.との楽しい会話が大きな魅力となります。

例えば「おはよう」と言ったら、Mamo.を連携したBOCCO emoは「おはよう、素敵な1日になりますように」と返してくれます。また「好きなメニュー、カレーライス」と事前登録しておくと、「カレーライス、食べたよ」と言ったら、「カレーライスは○○さんの好物ですね」と自分用の答えを返してくれたりします。

他のロボットの場合、どちらかのシステムしか使えない場合が多いのですが、BOCCO emoは融合可能でした。ですから使っていただいている方にとても好評です。

1番最初の起動時のみBOCCO emoとMamo.をアプリから連携させる作業が必要で、そのステップをスムーズに完了させることに苦労しました。実証実験の段階で何度も調整し、今では誰でも簡単に連携できるようになりました。基本の会話システムはすでに出来上がっています。ご利用者が使えば使うほどパーソナライズ化がされ、その人に合った褒め言葉や言い方になるので、日々使っていただきたいですね。

実際に離れて暮らしているご家族で使ってみていただいたところ、「親の様子がよくわかって安心」「軽い認知症の症状が出ていたのが改善されてきた」「薬の飲み忘れがなくなった」「家族間の会話が増えた」という体験談も伺いました。これからの高齢化社会に貢献するサービスに成長すると感じています。

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