20年先を見据えたプロダクトでシニア層へのアプローチ。玩具会社の新規事業開発事例

[お話を伺った方]
株式会社タカラトミー　五月女 友里衣 様 インタビュー

ー  どのような事業に取り組まれていますか？

私の所属していた部署はムーンショットプロジェクトといって、おもちゃの領域を拡張して新規プロダクトを考える取り組みをしています。ターゲット層もお子様向けではなくシニア層を狙ったり、最先端の技術を活用したりと多岐に渡って商品開発をしていました。その中でTHEおもちゃではない、シニアとお孫さんご家族とのコミュニケーションに生かせるような商品ができないかと考えて「nocoe（ノコエ）」を開発しました。

ー このプロダクトを作るきっかけは？

以前から弊社ではシニアミッションを考えることがよくあり、その中で「孫の声ってかわいいよね」という話題が出ていました。そこから声を使ったコミュニケーションプロダクトがいいのではという話になったんです。

ー ユカイ工学と共同開発に至った経緯は？

事業担当の者が以前からユカイ工学を知っていて、出しているユニークで温かいデザインのプロダクトを見て、一緒に開発ができないかと声をかけました。BOCCOなど、プロダクトとサーバーを用いたアプリを両立させて事業化しているものもあり、そういった知見を活かして一緒に具現化してもらえると思い、子ども以外にもターゲットを大きく広げていこうということでシニア向けのプロダクトにしようという話になりました。アイディア出しをしていく中で、丸くてシンプルな構成で、そんなに高くなくて「うまいな」と思わせられるプロダクトを作りたいよね、という方向になったんです。そこからnocoeの原型である丸いロボットの案が生まれました。

つつくと挨拶してくれて、こちらの挨拶も声で届けてくれるといったIoT的コミュニケーションができるカスタマイズロボ、みたいなアイディアがありましたね。

ー 何故シンプルなプロダクトに？

量産を見据えたPoC段階では機能を盛りだくさんにして、後から削りましょうというのがよくあるパターンですが、そのアンチテーゼとしてシンプルなところから作り始めましょうとユカイ工学との相談で決まりました。また高いと売りづらくもなり、普及にも向きません。

ただシンプルすぎると他社がすでにプロダクトとして出しているものもあり、初期に考えた構想とはいきませんでした。人同士を繋ぐというポイントは活かしながらも、お孫さんなど本当に親しい相手の声を届けることに重きを置きたいと考えました。案を元に市場調査で様々な方の声を聞いて取り入れています。

お孫さんの声をシニアの方が聞きたいというご要望と、親御さんからは日々成長する子どものしゃべり方自体を残したいというご意見をいただきました。「あの子の声」「あの頃の声」だから、すごく価値があるというテーマから、プロダクトの名前を「nocoe」と名付けました。

ー プロダクトデザインがアイディア段階とは変わりましたね

市場調査を踏まえてよりプロダクトの方向性が固まってきた段階で、ユカイ工学からプロダクトデザインの再提案をいただきました。そこで丸から鳥っぽい感じのデザインになりましたね。数種類の形や色のパターンを出してもらって、それでモニター調査を行いました。そうしたところ黄色い鳥の形をしたのが「ひよこちゃんみたいでかわいい！」という反応が多かったんですね。

最近のシニア向けプロダクトはおしゃれな物が多く、最初はブルーやグレーなどインテリアとして部屋に置いておいても目立ちすぎない物の方がいいのかなと思っていましたが、幼い頃の子どもの声とひよこがすごく親和性が高かったのが好評でした。ただ黄色ではおもちゃっぽさが出てしまう可能性があるため、メイク用品など昨今の落ち着いたテイストを踏まえた色味をユカイ工学のデザイナーの方に調査していただいて決めました。

玩具の開発には弊社独自の品質基準のルールがあり、それをクリアしようとすると格好悪くなってしまう可能性もあるのですが、それを踏まえて最大限に見た目よく作っていただけたなと感じてます。ユカイ工学には弊社からのわがままも受け止めてもらった上で、解決策をご提案いただくなど今回の開発で本当にお世話になりました。

ー 今後はどのような展開を考えていますか？

ユカイ工学に開発していただいたアプリのモニター調査も終えて、どう改善していけばいいかが見えてきたところなのでそれを改修していきつつ、試作検証などのトライアルをしながら事業構想を進め、量産・商品化にむけて進んでいきたいです。