【イベントレポート】ユカイ工学 CES出展10回の軌跡と世界のテックトレンド

2026/4 インタビュー・イベントレポート

米国ラスベガスで毎年1月に開催される、テクノロジー業界最大級の見本市イベント「CES」。ユカイ工学は2015年の初出展以来、新商品の初披露の場としてCESにほぼ毎年出展しています。今年の出展を終え、CESに精通した2名のゲストと、ユカイ工学CEOの青木によるスペシャルトークイベントを開催。「CES 2026」から読み解くテック界のグローバルトレンドや、国内展示会とは異なる舞台でユカイ工学がCESに挑み続ける理由など、様々なレポートとディスカッションが届けられました。

■目次
・ロボットや自動運転から、工場の領域にもフィジカルAI活用が進む(西村様)
・関税の影響で大きく変化したハードウェア産業(清水様)
・世界的に高まる「可愛い」「癒やし」への注目度(青木)

■ロボットや自動運転から、工場の領域にもフィジカルAI活用が進む
──「CES 2026」をご覧になった所感についてお一方ずつお聞かせください。まずは西村様からお願いします。

西村様:
今年のCESはまず、メディアの人数が例年より多かったのが印象的でした。ブロガー、YouTuberやTikTokerといった方がメディア枠として入れるようになったことで、全体的に若返っていた印象があります。

清水様:
インフルエンサーが多く感じられましたよね。メディアパスの枠が広げられたというのも要因かもしれません。

西村様:
続いてCES全体のオーバービューに関しては、イノベーションアワードが象徴的でしたね。
今年はアワード受賞数452件のうち、日本企業の受賞は7件にとどまりました。例年に比べ日本の存在感が少なくなっているのは、寂しいところです。そんな中でも嬉しかったのは日本企業の7件のうち半数がスタートアップによる受賞でした。特に最高賞の「ベスト・オブ・イノベーション」を獲得したORPHE(靴に装着できるスマートインソール「ORPHE INSOLE」で受賞)は、スマートインソールはダンサーの動きを靴から解析するというところから始まった技術ですが、今は工場で働く方が転倒していないかどうかを監視するなどのユースケースを作っています。「新しい、かっこいい、面白い」だけじゃない社会性の部分が、CESのアワードではより重視されるようになっているな、というのを感じています。

一方、大企業側の動向を象徴するキーワードとなったのが「フィジカルAI」です。 そのキープレーヤーであるNVIDIAのジェンスン・ファンCEOは基調講演において、AIの活用領域が単体のロボットや自動運転の枠を超え、今年は「工場」をはじめとする産業全体へと本格的に波及していく展望を示しました。この潮流は、CES初日のシーメンスによる基調講演でも「産業AI革命」として語られています。登壇したジェンスン氏とシーメンスのローラン・ブッシュCEO(物理学専攻)による対談では、エンジニア出身のジェンスン氏らしい熱量とともに、「物理と数学によるシミュレーションが、そのまま実世界に実装できる。これほどエキサイティングな時代はない」といった、理系的な知的好奇心に溢れるやり取りが展開されたのが非常に心に残りました。テクノロジーが経済や産業の構造を根底から変えていく今、ロジカルな「理系思考」を共通言語としてコミュニケーションを図る重要性が、かつてないほど高まっていると感じさせられる一幕でした。

清水様:
理系の方、すなわち現場の話がちゃんとできるCEOというのは魅力的ですよね。

西村様:
最後に個人的にすごくワクワクしたのが「LEGO SMART Play」を発表したレゴの初出展です。センサ内蔵で光や音を発するブロックで、例えば飛行機に「ブーン!」という音を出すパーツを付けると、飛行機の上昇、下降の動きに合わせて音が鳴るという遊びができるんです。AIがどんどん進化してもディスプレイの中で完結してしまうことが多いですが、レゴのようにフィジカルな体験として触って変化を楽しめることも大事だなと思いました。

青木:
レゴさんの展示は良かったですね。ユカイ工学として「こういうのがやりたかった」と共感した部分もありましたし。

清水様:
レゴはAIという言葉を使っていなかったですよね。CES全体の傾向としてB to B的なテックトレンド色が強まるなかでの原点回帰というか、「こういうのが見たかった」という感じもしました。

■関税の影響で大きく変化したハードウェア産業
──清水様からは「CES is Dead」というテーマをいただきました。

清水様:
私は2017年くらいからCESをウォッチしていて、当初は“でっかい電器屋さん”を回るような感覚でCESを楽しんでいました。コロナ禍以降はテックトレンドの意識が高くなりすぎて残念に思い始めていたのですが…今年とうとう「CES id Dead.(CESは死んだ)」を感じてしまいました。もちろん死んでしまったわけではなくて、「以前と何が変
わったのか」という話になります。 昨年から大きなテーマとなった「フィジカルAI」、今年は中国企業を中心にロボットが多かった。とにかくフィジカルAIの文脈で、LLM(大規模言語モデル)を使ってしゃべるロボットが並んでいました。また、例えば「LOVOT」で使われているような目のディスプレイを搭載したロボットも増えていて、ロボット用の部品も作りやすく、使いやすくなっているんだろうなという感じがしましたね。

そういった展示が増えた背景には、フィジカルAIのようなハードウェア領域は製造能力とサプライチェーンに強く依存するという現実です。アメリカはトランプ関税を始めた一方で、スマホ関連は例外措置をとりました。アメリカ単体ではスマホを作れず中国の部品がないと成立しないという事情があります。それはフィジカルAIのようなハードウェアも同じで、実際には製造できる国が主導する分野になっているということです。

青木:
CESの帰りにシリコンバレーに寄ってきたのですが、現地のロボット系スタートアップはみんなハードウェアは中国のものを使っていて、自分たちはソフトウェアを作ることだけに専念しているという。

清水様:
もう一つ、CESでラスベガスに行くならカジノで遊びたいと思い、軍資金のために「タイミー」に登録、スーパーマーケットの倉庫で仕分け業務をしたのですが、これがすごくCESの伏線になっていました。牛乳パックの入った箱の仕分けではメーカーごとに箱のサイズが違い、積み上げていくのが難しいんです。倒れないよう積むにはコツがあり、タイミーさんの知的労働になっている。私は「AIを使って解決するべきことかもしれない」と思いました。

青木:
まさに、フィジカルAIですね。

清水様:
こういう話こそがフィジカルAIの本質かもしれません。そう思いながらCESに行ってみたところ、CESではパナソニックがすごく近いこと(次世代の倉庫自動化ソリューション)を展示していたという。ただ帰国後に流通のプロに聞くと、ロボットではまだコストが高すぎるそうで、タイミーさんが仕事を担っているわけです。 フィジカルAIが商業活動に導入されるにはより一層のコストダウンが必要で、そのコストダウンのためにソフトウェアを頑張らないといけない。そんなときにCESと同時期に話題になっていたのが「Claude Code」でした。 AIでコーディングができるソフトウェアとして年末ごろに飛躍的な機能向上があり、プログラマーじゃない人でも便利なツールをかなり高い完成度で作れるようになったんです。アメリカのテック界隈はこの「Claude Code」の話題で持ちきりになりました。ラスベガスのCES会場ではフィジカルAIの展示が中心なのだけど、ラスベガスの外ではみんながソフトウェアの話をしている。つまり、CESとそれ以外の場所で見えている景色が違ったんです。
「CES id Dead.(CESは死んだ)」はこのことで、テックトレンドの震源地としてのCESの立場は微妙なものになったと感じます。とはいえ、“未来の電器屋さん”としては楽しい場ですので、電器屋さんらしさを今一度取り戻してくれたら嬉しいなと、個人的には思うのですけどね。

■世界的に高まる「可愛い」「癒やし」への注目度
──ユカイ工学としてのCES参加の意義について改めて青木よりお話しさせていただきます。

青木:
ユカイ工学のCES出展は2015年、JETRO(日本貿易振興機構)の展示エリアに出させていただいたときでした。そして自社でブースを出すようになり、「BOCCO」「Qoobo」「fufuly」といった新商品を発表、展示しながらいかにメディアに取り上げていただくかのノウハウを積んできました。
今年も、昨年発表の「猫舌ふーふー」を大型化して赤ちゃんをふーふーする新商品「Babyふーふー」と、タカラトミーとの共同出展で、開発のお手伝いをした「necoron」を展示しました。「もう寝たかな?」と思って赤ちゃんをベッドに下ろすと、また起きて泣き出してしまうというのがよくありますよね。「necoron」は赤ちゃんの足でデータを測り、ベッドに置いても良いタイミングを教えてくれるデバイスなんです。
ユカイ工学が新商品お披露目の場にCESを選ぶ最大の理由としては、現地を訪れるメディアが桁違いに多いことです。CESあれよりもメディアが多い展示会って、世界中を探しても他にないですよね?

西村様:
CESで一気にメディアカバーできるのは強いですよね。今年のCESはインフルエンサーを含めてメディアの裾野を広げておりました。CESとしてもメディア発信の魅力を拡張している姿勢が感じられますよね。

青木:
ユカイの新商品「mirumi」のクラウドファンディング期間中だったことも相まって、インフルエンサーの来場はかなりありがたかったです。また会場は支援をしてくださった方と直接出会える場所、という意味でも面白かったです。

西村様:
「mirumi」のクラウドファンディングは達成率がすごかったですが(ユカイ工学のクラウド史上最高額となる7,400万円/目標金額の9,685%を達成)、やはりCESの開催期間中にグンと数字が伸びた感じでしたか?

青木:
結構伸びましたね。印象的だったのは、あるインフルエンサーのInstagramの投稿をきっかけにインドでバズったことです。インドは配送対象国でなかったので問い合わせをたくさんいただいてしまったんですけどね(笑)。

■「CES 2026」で皆さんがご覧になった内容から、来年に向けて次なるトレンドの予想も伺えればと思います。

西村様:
今回のCESで感じたのは、全体的に「可愛い系」「癒やし系」のプロダクトが増えていることですね。世界的に人々が疲れている状況もあって、癒やし系のニーズはまだまだ続くんじゃないかと思います。対極の流れとして戦闘で使われるドローンなどがスタートアップエリアでも以前より出てきている、。これまでにない変化だと感じました。

清水様:
軍事ドローンから「mirumi」のようなものまで並んでいるのがCESらしいところですね。ロボットの話でいうと、例えば「LOVOT」は「セロトニンを分泌させるロボット」と言われていますよね。デジタルデバイスやアプリが医療デバイスとして認可される流れもあって、ヘルスケア領域で存在感が出てきている。日本の「ぬい活」文化とも相性がいいので、そのあたりがビジネスとして結びつくと、かなり広がる可能性はあると思います。

西村様:
アメリカではAARP(アメリカ退職者協会)がここ2~3年でCESの場で存在感を示していて、彼らは「これからはシニア向けプロダクトが伸びる」という話をしています。高齢者になったら施設に入る、ではなく今住んでいる場所でテクノロジーと一緒に暮らし続ける――いわゆるエイジング・イン・プレイス(aging in place)のための技術。そこにかなり力を入れていて、可愛いロボットとか、それ以外のプロダクトも重要になってくると。

青木:
「可愛い」や「癒やし」を生み出す「エモーショナルテック」への注目度は、今年のCESの後に香港のトイフェア(Hong Kong Toys & Games Fair)に行ったとき感じました。トイ業界でも「エモーショナルエコノミー」が一大トレンドになっているんです。日本では大人が可愛いものを買うのは普通ですが、アメリカやヨーロッパでも同じように、感情的な体験を求めてそういう商品を買うようになってきているみたいですね。

西村様:
少し前までアメリカの人にこういう話をすると「子ども向けでしょ」と言われて終わりだったんですが、そこが変わってきています。

清水様:
ロボットの世界でも似た変化がありますよね。昔は二足歩行ロボットって、日本人しか作らないロマンみたいなものだった。でも今は世界中が二足歩行ロボットに挑戦している。ここはキャズムを越えた感じがしますね。

青木:
ディズニーの「白雪姫」(世界初の長編アニメーション映画)って、実は1930年代後半の、世界情勢がかなり不安定なときに作られた作品なんですよ。そういう大変な時代に、ああいったファンタジックな物語が求められた。もしかしたら今も、それに近い流れが起きているのかもしれませんね。


〈登壇者プロフィール〉
株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村 真里子様
日本IBM ITエンジニアとしてキャリアをスタート。アドビ、バスキュールを経て2014年株式会社HEART CATCH共同創業。2020年米国ロサンゼルスにHEART CATCH LA共同創業。テクノロジー&クリエイティブのキャリアを活かし、企業や自治体の新規事業案件の企画に多く携わる。日米のスタートアップに投資しグロース支援、オペ
レーション支援を実施(J-Startupサポーター)。内閣府日本オープンイノベーション大賞専門委員会委員。Art Thinking Collective(仏パリ / ビジネススクール ESCP)インストラクター。Forbes Japanオフィシャルコラムニスト。武蔵野美術大学 客員教授。

ベースドラム株式会社 代表取締役 清水様: 幹太様
バーテンダー/トロンボーン吹き/DTPオペレーター/デザイナーなどを経て、独学でプログラマーに。2005年12月より株式会社イメージソース/ノングリッドに参加し、本格的にインタラクティブ制作に転身、クリエイティブディレクター/テクニカルディレクターとしてウェブサービス、システム構築から体験展示まで様々なフィールドの
コンテンツ企画・制作に関わる。2011年4月より株式会社PARTYチーフ・テクノロジー・オフィサーに就任。2013年9月、PARTY NYを設立。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。

ユカイ工学株式会社 代表取締役 青木 俊介
東京大学在学中にチームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。「ロボティクスで、世界をユカイに。」というビジョンのもと、家庭向けロボット製品を数多く手がける。2015年よりグッドデザイン賞審査委員。2021年より武蔵野美術大学教授。

レポート一覧ページはこちら
法人向けサービスはこちら

メールマガジン

開発事例インタビューやセミナーレポートなどの最新情報をお届けします。
是非お気軽にご登録ください。

IoTシステム開発や
ロボット活用・開発のお困りごとは
ユカイ工学にお任せください

お問い合わせ・資料ダウンロード