しっぽクッション「Qoobo」や「猫舌ふーふー」など、ユニークな製品を生み出すユカイ工学独自のアイデア発想法である「妄想会」や「メイカソン」。当セミナーでは、東洋製罐グループとユカイ工学による「猫舌ふーふー」の共創開発をはじめとした具体的な事例を交えながら、ユニークな製品がどのように生まれるのかをご紹介。また、企業のイノベーション推進や人材育成の第一線で活躍するお二人にお越しいただき、パネルディスカッションを行いました。
創業108年の歴史を持ち、缶を始め金属、ガラス、紙、プラスチックという4大素材で容器を作り続ける東洋製罐グループ。そして、子供から大人まで年間約5万人規模の教育事業を展開するヒューマンアカデミー。包装容器、人材育成という、それぞれ違った分野でイノベーションを生み続ける両社に、今後のAI時代のイノベーションに必要なアイデア発想法や能力開発について伺いました。
■新しい価値を生み出していくために必要なこと
冨永:
当パネルディスカッションでは、大企業の皆さんの立場から見て、イノベーションを生み出すときの苦しみや、それをどう乗り越えているのかというあたりをお伺いできればと思います。

三木様:
新しいものを生み出すときというのは正直、「苦しみしかない」というのが僕の個人的な感覚です。そのうえで、苦しみの原因には大きく分けて、個人と組織の二つの観点があると思います。個人の観点では、アイデアソンやワークショップでたくさんのアイデアを出し合う場合、アイデアの質が低いと、上司からは市場性があるかを問われ、本人はアイデアが潰されたと思ってしまう。
一方で、弊社にポケモンカードがものすごく好きな社員がいて、カードが湿気で反ってしまいやすいことから、「カードが反らないケースやスリーブを作ったら絶対に買うので、防湿性の高いパウチの技術を使えないか」というアイデアを出してきたんです。これはかなり面白いと思いませんか? そういった、仕事とは直接関係ない経験や趣味からの発想で、尖った切り口を持てるかどうかは個人の課題だと思います。
組織の観点での課題としては、ちょっと変わっている人こそがイノベーションを起こすものですが、そういう人は組織の中では変人扱いをされて出世せず、認められにくいということがあります。結果的に経営層は、そういうアイデアマンが最近は生まれないと課題視し、社員側は、上にそういった人がいないと嘆きます。どちらも自分じゃない誰かヒーローがいないとアイデアが生まれにくいという他責思考になり、新しい事業が育ちにくくなります。
東洋製罐グループにおける光学用機能フィルム(※)などのイノベーションでも、自社製品の強みを、他の業界の自分事の課題と、トップダウンで組織的に組み合わせるというプロセスがありました。自分事のアイデアと、組織的にそのアイデアを活かすというプロセスが、新しい価値を生んでいくうえですごく重要ではないかと思います。
※容器用鋼板向けに開発した無延伸ポリエステルフィルムの製膜技術。液晶ディスプレイの偏光板などに使用されている。

冨永:
ユカイ工学では “妄想を大事にする”という文化のもとに、全社員でアイデアを出し合う「妄想会」というものを毎週1回やっています。でも、入社して最初からアイデアが出せる人ばかりではなく、訓練を重ねることが重要と考えています。東洋製罐さんを含め、いろんな会社さんが「企画ができないけどどうしたらいいか」と迷うケースで、弊社に声をかけてくださることがあるのですが、そこで苦しみを一緒に乗り越えながらイノベーションを生んでいこうというのが僕らのスタンスです。ヒューマンアカデミーさんでは、そういった部分での苦しみはあるのでしょうか。

川上様:
商品開発においては定期的な会議がありますが、規模が大きいとどうしても「それはリサーチしたのか」「何人の人が言っているのか」といった判断基準が入るので、せっかく出たアイデアも潰れる方向にいってしまうことが多いですね。それも事業の規模やスケーラビリティを考慮すると、組織としては上と下、マネジメントの役割分担がある都合上、なかなか解決できない部分があります。だから、どうしても「ヒットするもの」を強制してしまいがちですが、こうしたアイデア出しなどは、苦しくても「どれだけ打席に立たせるか」を大事にするべきだと思います。
■大企業から見た、ユカイ工学ならではのものづくりと組織文化
冨永:
東洋製罐さんやヒューマンアカデミーさんは、スタートアップを含めたいろんな会社と繋がりを持たれる機会があると思いますが、そうして社外の人たちと会うことによるメリットをどのように考えていますか?
三木様:
大企業の人は、常に得意先や社内の同じ人としか話していないことが多く、製品の「本当の価値」について言語化できていない場合が多いんです。ところが外部の人と話をすると、純粋な「こんなこともできるの?」という問いかけが大事な気づきになることがあります。
弊社はレトルトパウチを世界で初めて実用化しましたが、レストランの世界ではレトルト食品はあまり使われません。しかし、調理師の方と協業した際、通常は低温で数時間調理する必要のあるジビエのスネ肉が、レトルトすることで開けて10分で料理になる、といった新しい価値が見えてきたりするんです。外の人と関わることで、時短や労働力不足などの課題も含めて、レトルトの価値を再発見できるという。スタートアップだけでなく、調理師学校や官公庁なども含めた組み合わせが、社外の取り組みでの良い事例になっています。
冨永:
数あるスタートアップの中で、ユカイ工学が持つ特色はどのあたりに感じていらっしゃいますか?
三木様:
「猫舌ふーふー」もそうですが、「もぞもぞ動く袋」「ごくごく動くUSBチャージャー」「物を擬人化するデバイス」「遠くの誰かに揉まれると光るデバイス」など、まだ商品化されていないものも含め、とにかく独特なアイデアですね。最初に出会ったスタートアップと大企業のマッチングイベントでは、多くの参加者がしっかりしたパワーポイントでプレゼンをしてくる中で、手書きのイラストだけで勝負する。そういう挑戦もユカイさんらしいと思います。
冨永:
ユカイの妄想会やメイカソンでは、パワーポイントではなくあえて手書きの文字で、強調は赤ペンを使うだけにするなど、より伝わりやすくするための工夫をしています。こうしたスタイルで、企画も実際に進んでいると感じています。

「猫舌ふーふー」初期提案ラフスケッチ
三木様:
そんな手書きの「猫舌ふーふー」の初期案を見ると2018年10月と書いてありますね。
川上様:
7年前ですが、まだまだ色あせていないですね。
冨永:
ありがとうございます。おかげさまで「猫舌ふーふー」は日本だけではなく、“猫舌”という言葉や概念がない海外でも新しいニーズの発見につながり、大きなバズになっているところです。
■今後の人材育成、能力開発に求められるもの
冨永:
そして、AI時代のイノベーションに必要な能力開発についてお話を伺いたいです。「AIを使いこなす力」は皆さんのなかでもイメージしやすいと思うのですが。今後、新しいビジネスを創造し運営する能力や、主体的に学び続ける姿勢について、個人として、組織として重視すべきなのはどんな点でしょうか。
川上様:
先ほどユカイさんの妄想会の話にもありましたが、これらはトレーニングで身につけられるというのが前提と考えています。少子化の時代ですが、こうしたトレーニングを教えるような新しい学校も増えてきていて。例えば先進的な教育機関では、アントレプレナーシップ(現状を変えようとする挑戦的な姿勢や、新しい価値を生み出すための行動)×AIをテーマに、課題解決をチームで繰り返すことで精度を上げていくというプロジェクト型学習を行っています。インプットやマーケティングという部分ではAIが優れた能力を発揮できるので、それをふまえて学習の仕方や考え方を変えることが大事ですね。
冨永:
なるほど、マーケティングの知識が不要というわけではなく、あくまで前提として活かして進めていく感じですね。
川上様:
そうですね。マーケティングの知識はフレームワークとして、自分が考えることは誰かがすでにやっていることとして整理するために必要です。ただ、そこに頼りきって「この人が欲しいと言っているから売れる」という確率論だけで商品開発を進めると、うまくいかない時代になっているのではないかなと。

冨永:
いろんな会社さんに企画会議の話を聞くと、最初は熱意があった企画でも、いくつもの会議を経るうちに熱量がそがれて形にならないというケースがよくあります。ユカイの妄想会では、自分が本当に欲しいものを突き詰めて企画するので、会議であれこれ言われても最後まで熱意が持続するんです。例えば「猫舌ふーふー」は、子どもの離乳食を適温に冷ますのがあまりにも大変だったという僕自身の個人的体験から生まれました。こうして自分自身が本当に欲しいという思いがあるということが熱意につながったり、ストーリーを生んだりすると思っています。
川上様:
確かに、アイデアを出してから商品化に至るまでは、その先にある体験やストーリー、手触りなどの総合的な価値が必要で、そこに人間の経験や熱意を組み込むことは不可欠だと思います。
冨永:
東洋製罐さんはいかがでしょうか?
三木様:
「猫舌ふーふー」のような商品を世に出す場合、価格や販売数の議論で社内の稟議を通すことは難しいと思います。しかし、歴史を振り返ると創業期は利益よりも、さまざまな出会いや角度から新しい市場をつくるイノベーションは生まれているんです。現在の社内組織や顧客の規模で斬新な提案をするのはなかなか難しいですが、振り切ったアイデアを出すためには、「これくらいやらなきゃダメなんだ」という論点を作ることが重要でした。また、それを下から上に上げるとき、市場調査や数字だけで固めた人の案は通りにくく、その人個人の意欲や姿勢に依存する部分が大きい。そのプロセスを会社として理解し、整備する能力がまだまだ求められていると思います。

東洋製罐様と製作した初期の「猫舌ふーふー」
冨永:
ありがとうございます。「猫舌ふーふー」のように、自分の実体験と熱量から生まれるようなアイデアは、AIからはなかなか出てきません。こういった体験に基づく企画は、AI時代でも重要な要素ではないかと個人的には思います。
三木様:
このAI時代でも、“愛(AI)”や熱量は市場調査だけでは見えてこないところですよね。だから、そういう部分を大事にしたプロダクト開発に関わる皆さんと一緒に、新しいことをやっていきたいと思っています。容器やパッケージなどに関することでご提案があれば、ぜひお声がけください。
川上様:
今、AIがもたらす影響は大きいですが、アントレプレナーシップ精神を改めて意識することで、より面白いことが生み出せるチャンスでもあるのではないでしょうか。それを踏まえて、僕らも妄想していけたらなと思います。

登壇者:
東洋製罐グループホールディングス株式会社
イノベーション推進室 室長
三木 逸平様
株式会社キャッチアップウィズレイジー 代表取締役
ヒューマンアカデミー株式会社 顧問・前社長
川上 輝之様
ユカイ工学株式会社
取締役CMO
冨永 翼
IoTシステム開発や
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