広島県呉市の島に暮らす独居高齢者と周りの人を繋ぐ架け橋に。コミュニケーションロボットで実証実験

2023/11 インタビュー・イベントレポート

[お話を伺った方]
広島県呉市 総務部行政改革デジタル推進第2課 改革第4G
佐々木 理人様

– 広島県呉市の特徴とその課題について教えてください

広島県呉市は、明治22年に海軍鎮守府が設置され海軍の町として発展し、高度経済成長期には鉄鋼・造船などをはじめとした、ものづくり産業を中心とする工業都市として発展してきた地域です。呉市には安芸灘諸島をはじめ多くの島しょ部がありますが、日本の中核市の中でも高齢化率が高い水準となっていることに加え、平地が少なく山腹まで居住場所が広がっていることから、より住みやすい地域を目指して様々な事業に取り組んでいます。

例えばこれまでの取り組みとして、国民健康保険の医療レセプトや健診データを分析することで生活習慣病の重症化予防等、被保険者の健康の保持・増進に活用しています。この取り組みはデータヘルスの先進的事例として「呉市モデル」とされています。国はすべての保険者に「データヘルス計画」の策定を求め、保険者が持つ医療レセプトや健診データに基づいて保健事業計画を作り、被保険者の健康増進や病気の予防への取り組みを促しています。そうすることで高齢者が健康的に過ごせると共に、国や自治体としても医療費を抑えることが期待できます。

– 地域の課題解決に向けて、その他にどのような取り組みを行なっていますか?

呉市は積極的にDX化などを進め、住みやすいスマートシティとなることを目指しています。その実現に向け呉市の様々な課題を解決する手段として「スマートチャレンジくれ」を始めました。これは、事業化の前段階から民間事業者や大学等高等教育機関の皆様との意見交換を行う産学官連携の取り組みとなります。子育て・教育、福祉保健、文化・スポーツ、都市基盤など、いくつかの分野ごとに携わる方からヒアリングを行なってニーズを探り、全50項目を一覧にして公開しました。そのニーズを解決するソリューションを様々なところからご提案いただき、意見交換やワーキングで課題を深掘りしながら、実証実験や実装を目指すものです。
募集の結果多くのご提案をいただき、現在公表している取り組みは5件となります。その内の1件が、ユカイ工学のコミュニケーションロボット「BOCCO emo(ボッコエモ)」を活用した取り組みですね。

島しょ部に暮らす高齢者の見守り支援の実証実験に

島しょ部に暮らす高齢者の見守り支援の実証実験に

 

– BOCCO emoを活用したプロジェクトを進める決め手はなんでしたか?

コミュニケーションロボットを利用して高齢者とのコミュニケーションを図る取り組みのご提案は、ユカイ工学のみでした。
昨今ではコロナ禍によって、外出の自粛や人との交流機会が減ってしまったことで「フレイル(心身の活力が低下し、要介護へ移行する中間の状態)」に該当する高齢者が増えてきています。
フレイルを予防するためには規則正しい生活や適度な運動、コミュニケーションが大きなポイントとなるのですが、BOCCO emoとヘルスケアデータを連携して、運動促進やコミュニケーションによる行動変容ができるのではないかという内容をユカイ工学からご提案いただきました。

フレイル予防をはじめとして将来的には医療費の適正化や高齢者を見守る方々の負担軽減といった、様々な効果がこのBOCCO emoにより期待できるのではないかと考え、まずはスモールスタートで始め、効果があるのか検証させてもらいたいということでお声がけさせていただいた形ですね。

– 実際にどのようにBOCCO emoを使った実証実験をされましたか?

BOCCO emoを通して、今後高まる高齢化及び担い手不足を解消するため、高齢化率の高い呉市の安芸灘地域で課題解決が図れないかと考え実施しました。
高齢化率が60%以上となっている安芸灘諸島を実証実験のフィールドとし、呉市社会福祉協議会と所属のケアマネジャーさんにご協力 いただいて、ご家族と離れて暮らす独居高齢者のご自宅にBOCCO emoを設置させていただきました。BOCCO emoには事前に高齢者にヒアリングした起床時間や薬を飲む時間、ケアマネジャーさんが来る時間などをリマインド登録して、BOCCO emoから高齢者に声かけするようにしました。

事前に生活パターンを把握するためにヒアリングシートを用意して、ケアマネジャーさんの協力によって高齢者の方に埋めてもらい、私が設定しました。
リマインドの設定自体は簡単な作業だったと感じています 。ただ、スマホやタブレットでしか設定できないので、それがパソコンからでも設定できるようになると嬉しいなと思いました。
設定した具体的な内容は「おはよう」「おやすみ」といった挨拶に加え、「ケアマネジャーさんが何曜日に来ますよ」や、「何曜日にリハビリセンター行きますよ」「ゴミの日はいつですよ」といった、個々のライフスタイルにあわせたものですね。

また、生活導線上に人感センサや部屋センサを組み合わせて設置することで、メッセージのやりとりがなくても簡易的な見守りができるようにしました。

– 設置してみての反応はいかがでしたか?

これまで、電話回線を利用して直接消防局に通報することが可能な「緊急通報装置」という機器の提供はあったのですが、ロボットやICTを通しての見守りは始めての試みでした。
今回の実証実験にご協力いただいた方にアンケートを取ったのですが、概ね高齢者、ご家族からの受けとめはよかったと感じています。見た目がかわいいことや、日々おしゃべりをしてくれることに好感を抱いてもらったようです。ただ、LTEタイプのBOCCO emoを使っていたのですが、島しょ部という土地柄どうしても電波が入りづらいという課題はありました。
今回の対象者は、スマートフォンを使っていない、もしくは使うことが難しい独居高齢者の方としていました。ご自宅にWi-Fiがない方でも、携帯電話の回線があるところで使えるLTEタイプのものがあるのは、とても便利だと感じました。
ただ、呉市全域で拡充していくとなった場合、島しょ部での利用は必須であるため、LTEタイプの電波感度が改善するとより展開しやすくなると感じました。また血圧や歩数計などバイタルデータとの連携によるヘルスケアの推進にも期待したいところです。

– 今後の展望など教えてください

呉市では、独居の高齢者や高齢者のみの世帯が増加しております。こういった方々が自分らしく安心して住み慣れた地域で暮らしていくには、遠方に住むご家族や近所の方、民生委員など関係者同士での助け合いが重要になります。そういう方々を巻き込んで実装を進めていけるといいのではと考えています。

厚生労働省資料より抜粋

 

今後、呉市の考える地域包括ケアシステムの更なる推進に向けBOCCO emoがご家族や地域の関係者、行政を繋ぐ一部になることができないかも踏まえ、フィールドを変え、自治会や民生委員といった方々も追加して検証をしていきたいですね。

レポート一覧ページはこちら
法人向けサービスはこちら

メールマガジン

開発事例インタビューやセミナーレポートなどの最新情報をお届けします。
是非お気軽にご登録ください。

IoTシステム開発や
ロボット活用・開発のお困りごとは
ユカイ工学にお任せください

お問い合わせ・資料ダウンロード